駒崎弘樹氏インタビュー
(NPO法人フローレンス代表理事)
最近、「働き方改革」や「ワーク・ライフ・バランス」という言葉をよく耳にする。今、仕事と生活の調和をとり、いかに充実した人生を送るかということに、世の中の関心が集まっている。また、〝働く〟ことに対して、個人の意識だけでなく、企業や行政、地域社会の在り方が見直されつつある。
駒崎弘樹氏はある日、「子供が熱を出したので保育園に預けられず、会社を休んで看病したら、クビになってしまった」という女性の話を聞き、保育業界最大の難問である「病児保育問題」の解決に向けて立ち上がった。2004年に認定NPO法人フローレンスを設立し、新たな試みとして、訪問型の病児保育事業を展開。その功績が認められ、07年にはニューズウィーク誌「世界を変える社会起業家100人」に選ばれた。現代社会が抱える課題を解決し、より良い社会の実現に向けて、日日奔走する駒崎氏にお話を伺った。
訪問型病児保育
ある日、ベビーシッターをしていた母から、「子供が熱を出したとき、身内や施設に預ける当てがなかったため、仕方なく会社を休んだら、クビになってしまった」というお客さんの話を聞きました。正直、「そんなバカげたことがあっていいのか」と思いました。同時に、何とかしなければという強い使命感に駆られて立ち上げたのが、このフローレンスです。
フローレンスが最初に取り組んだのは、「訪問型病児保育事業」です。一般的に、子供が37度5分以上の熱を出すと、保育園では預かってもらえません。そのため、働く親は仕事を休まざるを得ず、子育てと仕事の両立を阻む大きな壁となっています。そこで、保育園に代わって体調を崩した子供を預かるのが、「病児保育」という仕組みです。
国や自治体が行っている一般的な病児保育が、子供を施設で預かるという形なのに対して、フローレンスでは会員制による訪問型の病児保育を行っています。訪問型とは、体調を崩した子供の家に直接保育士を派遣するというものです。われわれは派遣する保育士のことを、「こどもレスキュー隊員」と呼んでいます。現在は、保育士を派遣するだけでなく、日本初となる提携医師による往診も始め、はしか以外の全ての疾病・病状でご利用いただけます。
共働き夫婦の増加や核家族化など、社会変容からくるニーズの増加に伴い、この10年余りで六千六百名以上の会員登録がありました。対応件数は五万件以上にも上り、全て無事故で、顧客満足度の極めて高い、高品質なサービスを提供できるようになりました。現在、対象エリアを東京、千葉、埼玉、神奈川へと拡大しています。
こどもレスキュー隊員
初めは私も、訪問型ではなく、施設を造ろうと思っていました。しかし、商店街の空き店舗を施設にする計画を進める中で、諸事情により行政から補助金が出ないことになってしまい、計画が頓挫したのです。「どうしよう、施設を造れない」と半ば諦めかけていたとき、自分が子供だった頃を、ふと思い出しました。
わが家は共働きだったため、母一人だけで私の面倒を見られないことが多々ありました。そんなときは、同じ団地の3階下に住んでいた、松永さんというおばちゃんに預けられていたんです。親戚でも何でもないんですけど、一緒にご飯を食べたり、熱を出したら看病してくれたりして、本当にお世話になりました。よく考えたら、そういうおばちゃんがたくさんいれば、別に病児保育は施設じゃなくてもいいんじゃないかと気付いたんです。
だから、松永のおばちゃんが、現在の「こどもレスキュー隊員」のモデルなんです。そういう「松永のおばちゃん」的な人がたくさんいれば、施設を持たない訪問型の病児保育に挑戦できそうだということで、再び事業が走り出しました。
チームワークを高める
サービスの開始に向けて、とにかく実直に取り組む中で、応援してくれる人や信頼してくれる人が徐々に増えていきました。当時、体調を崩した子供の預かり先がないという問題は、みんな困っているけど、だれも手を差し伸べてくれる人がいないという状況でした。ですから、われわれがサービスを始めるとき、ある新聞社が取り上げてくださり、その記事を見た多くの方々から「私も利用したい」という声を頂きました。人々が本当に必要としていることをしたら、自然と多くの注目が集まり、だんだんと周りからの信頼が生まれていったんです。
また、社会が抱える課題を解決していくには、一人ではなく、チームで挑んでいかなければなりません。病児保育という取り組み一つにしても、フローレンスのメンバーはもちろん、企業や行政を巻き込みながら問題解決に取り組んでいくことが大切です。
もう一つ、フローレンスのような非営利事業や社会事業は、より良い社会の実現を目的としているので、協力や参画をしてくださるメンバーは、そのミッション(使命)に共感してくださった方々ばかりです。つまり、営利企業とは違い、売り上げをこれだけ上げようといって、モチベーションを高める人たちではありません。「どれだけの人をたすけられるか」という話でなければ、みんな燃えません。だから、「この事業をやっている目的や意義はこうなんだ」とメンバーに伝えていかないと、良いチームはできないっていうところがあるんですね。
これからの働き方
一般的に、「働く」という言葉は、賃金労働を指します。でも、「働く」はそもそも、生き方を表す素敵な言葉だったのです。その語源は、傍を楽にさせるというところからきています。傍とは他者のこと。つまり、働くとは周囲の人々を楽にさせるという意味なんです。
例えば、会社で働きながら家族をケアする、あるいは地域でイベントを開催して子供たちを喜ばせるといったことも、傍を楽にさせているわけですよね。だから他者を楽にさせるものは全部「働く」と位置付けて、働くという概念自体を変えていきたいと考えています。
僕自身も、「傍を楽にさせる」を実践しています。毎晩、子供を寝かしつけていますし、できるだけ夜の会食も入れないようにしていて、基本家庭を主体としています。
また、地域のコミュニティーとの関わりも大切にしています。最近なら、保育園や小学校の父兄たちと、おやじの会とか、パパ会っていう、飲み会を開いています。地域って、寝に帰るだけだと捉えたら、どこでもいいし、コンビニが近いほうがいい、みたいなものにしかならない。だけど、地域に知り合いや友人たちができて、そのコミュニティーが楽しくなると、地域というものに色彩が帯びてくる。そうして会社あるいは家族以外のコミュニティーとも関わりを持ち、いろんな人生の軸を持つことができれば、人生そのものがさらに豊かになっていくと思うんですね。
最後に天理教の青年会員に一言お願いします。
「社会的課題の解決に向けて、共に一歩を踏み出しましょう」と言いたいですね。天理教の若者たちがみんな外に出て「僕らの地域が抱えいてる課題を解決しようぜ」って動き出したら、すごい大きな力になると思うんですよ。例えば、天理教の皆さんが、里親に貢献している割合はすごいと思うんですよね。里親の約10%が天理教でしょう。いなくなったら本当に大変ですよ。もし天理教の若者がこれから頑張って、「NPOの10%は天理教だよ」というふうになれたすごいですよ。ぜひそうなってもらいたいなって思いますね。
(インタビュー 2018.5 @Tokyo)
(大望 2018.7 No.595より転載)
おすすめの記事
集中講義 奈良教区青年会(ルポ)